村岡到:社会主義理論学会研究集会での報告2003.6.10
以下は、5月18日に開かれた社会主義理論学会研究集会で行った報告のレジュメと、その会での討論についての報告。
社会主義と法の問題
村岡 到
はじめに
いくつかの歴史的事実
1948年、国連憲章の採択にソ連邦などは棄権
ペレストロイカ、現在の中国でともに「法治」の重要性を強調
現下のSARS、隔離の必要性 何よりも道徳と法律の問題
この研究集会のメインテーマ――社会主義論の問題状況――について
ソ連邦崩壊後の思想状況 社会主義の敗北、棄教の流行 マルクス主義の運命
@ソ連邦論 定説不在
Aアソシエーション論の流行 村岡:1992年「アソーシャリズム」〜不破哲三:2002年
B計画経済の是非 (しだいに触れなくなるでよいのか)
C法(律)の問題の重要性
社会主義とは何か
経済:<賃労働と資本>関係の変革 価値法則の揚棄 生産手段との関係での平等
村岡は<協議経済>を提起
1 近代社会での<民主政>実現の意義
経済:物質的・精神的財貨の生産と分配
人間社会 政治:社会の秩序をめぐる営為
文化:生活の内容と水準 一体的、次第に分化、相互規定的
近代社会における政治システム=民主政
原理:法の前での平等 人権 の歴史的意義
資本制社会における政治システムは「ブルジョアジー独裁」ではない
2年前のこの集会で田畑稔:「ブルジョア国家だ」?
この原理に代わる原理はあるのか? ←→経済については抽象的ながら明示
ロシア革命における経験 <生産の社会化>として
1918年の勤労者被抑圧人民の宣言 → 1936年スターリン憲法=市民が主体に
「法律についての無知は革命家の誇り」 「自白は証拠の女王」
パシュカーニスの悲劇
ロシア革命の歴史的意義は認める not清算 上島武の積極面
実践的教訓:則法革命こそ活路 not暴力革命 まず政治権力奪取の誤り
日本共産党:「敵の出方論」なお正しいと主張(不破哲三)
2 マルクスの弱点・限界
最新の認識 大藪龍介 「マルクスは民主主義について甚だ手薄な認識」
(『アソシエーション革命』所収論文)
加藤哲郎も同様な認識 1998年『マルクスカテゴリー辞典』 きわめて重大なはず
マルクスの政治認識
国家:「支配階級の諸個人の利害貫く」「市民社会の総括形態」
「近代の国家権力は、全ブルジョア階級の……委員会」(『共産党宣言』)
「法律、道徳、宗教は、プロレタリアにとっては、……ブルジョア的偏見」
議会の意義つかめず 暴力的打倒路線(『共産党宣言』)
経済(分析)のみ偏重 その成果=『資本論』だが
政治は、経済の従属変数 (国家論は許容されるが、政治学はブルジョア政治学?) 唯物史観の問題点
ダルマ型認識
この図は省略。拙稿「社会の規定と党主政」『カオスとロゴス』第23号、40頁。
多様性を位置づけられず ←→ 多様性認識に踏まえてこそ平等を追求できる
「人間は何であり、何であるべきか」(『ドイツイデオロギー』)の錯誤
←→<何を為してはならないか>を明らかにすべき(「十戒」の意義)
3 この新しい認識の意義と有効性
社会主義:政治システムの原理は変更しない 変革するのは経済システム
プロレタリアート独裁論の誤りを根本的に切開
社会主義をイデオロギーから解放する グスタフ・ラートブルフ
ソ連邦論の深化 「資本主義か社会主義か」のレベルを超える
「ソ連邦=国家資本主義」説の不毛性 闇経済にすら気づかず(叶秋男)
経済:指令経済(計画経済) 政治:党主政
岩田征昌の認識(「党社会主義」)と反応
改憲阻止闘争での課題 憲法第1条、第29条の改訂が必要
法とフィクションの問題(昨年の集会での大江泰一郎の提起)
参考文献
村岡到『協議型社会主義の模索』1999年
『連帯社会主義への政治理論』2001年
『生存権・平等・エコロジー』2003年
「社会の規定と党主政」『カオスとロゴス』第23号=2003年6月
研究集会の後で
大意以上のような報告をした。
次に討論になった点について、簡単に記すことにする(順序は不同)。認識の深化こそが大切だと考えるから、質問者が誰かについては示さない。
@「マルクスが生きていた時代と今日では違うから、マルクスの民主主義理解の弱さを批判するのは失当である」
A「村岡報告は、政治と経済を完全に分離しようとしていて適切でない」
「資本主義の法、あるいは経済の法は、資本主義のルールをスムーズに実現するためのものではないのか」。
B「ソ連邦(ロシア)の闇経済は、ソ連邦崩壊以前は大したものではなかったのではないか」
C「『ドイツイデオロギー』の「人間は……」は、マルクスの言葉ではなく、マルクスが批判対象にした人びとの言葉であり、解釈が誤っているのではないか」
D「グローバリズムや中国についての言及がないのはどうしてか」
E「報告には<所有>の視点がないのでは」
F「マルクスが青年期に最初に取り上げたのは検閲問題であり、民主主義について認識が甘いということはない。大藪、加藤認識は初期マルクスを見ていない。マルクスはその認識を前提にして政治を論じているのだ。マルクスはソ連邦で現出した酷い検閲に反対したのだ」
〔1〕確かに時代的相違、限界についても認識しなければならないが、同時代人のミルは『代議制統治論』を著わして、民主政の意義を強調した。
〔2〕政治と経済を完全に分離しようとしていないから、レジュメに「相互作用」などと明記してあり説明もした。「資本主義の法、あるいは経済の法」とは何か。法と資本制社会の法律とは異なる。資本制経済を律する法律が資本制経済のルールをスムーズに実現するためのものというのは同義反復にすぎない。資本制社会の法や法律は何も経済についての法律だけではない。
〔3〕〔出席されている〕ソ連邦研究の専門家の上島さんに答えてもらうのが適切だと思うが、私は叶説への批判のさいに、メンシコフからの数値として1988年に25%と指摘しておいた。〔司会の石井氏が30%と発言。闇経済の特質からして正確に数値をあげることはできない〕
〔4〕読み方の違いだと思うが、黒田寛一も強調しているように、マルクスの考え方としてもよいのではないか。
〔5〕その2点に言及していないのはその通りだが、問題にしなくてよいということではない。一度に短時間に多くを語れないということでもある。なお、私の方法を使うと、中国は「向資本制党主政」と言えるかもしれない。ソ連邦は<指令制党主政>である。
〔6〕「生産手段との関わり」について明確にしてあり、レジュメに書いた憲法第29条はまさに所有の条項である。
〔7〕「前提にして」という言葉の使い方が不正確だ。以前に論じたことがあるからと言って、後の時期の論述でその認識が「前提に」されているかどうかは分からない。また、「ソ連邦の検閲にマルクスが反対した」などという挑発的な表現は会場から大きなブーイングを招いた。時空を無視した発言は同調者の間でだけ聞き流されるだけで討論の場にはふさわしくない。
なお、〔7〕について、私が、重ねて、報告で引用した『共産党宣言』での文言が正しいのか、今日にも通用するのかと問い返したが、質問者は別のことを話しただけで直接答えることを避けた。そして、閉会後の二次会で『共産党宣言』を示して問うたら、「『法律は、プロレタリアにとってはブルジョア的偏見』は当時としては正しいし、今日でも大部分は正しい」と最後にようやく答えた。果たしてそうであろうか? この問題は、〔1〕や〔2〕の基本認識とも重なる。「法律は、プロレタリアにとってはブルジョア的偏見」が正しいか否かは、重大な問題であり、この点でマルクスの影響の大きさを改めて実感した。マルクスはこのように考えていたがゆえに、ミルとは逆に民主政についての認識が明確ではなかったのである。
また、松尾匡氏の報告について、一言だけ発言したので記しておきたい。報告中の図に「資本主義経済→アソシエーション経済」とあり、その上にそれぞれに対応して「ブルジョア政治体制、社会主義的政治体制」と書いてあるが、この4つの言葉の内実は何なのか、不明である点についてである。「資本主義」と「ブルジョア」はどう違うのか? 「アソシエーション経済」では「市場」はどうなるのか? 「資本主義経済」の本質だと考えられる「賃労働と資本」関係はどうなるのか。価値法則は? 「社会主義社会での政治システムは何か」という問いに「社会主義的政治体制」と答えるのは答えといえるのか? 私の場合にはすでに明らかにしたように、3つの言葉の内実は原理的には明示してある。松尾氏は、「アソシエーション経済」の中身は私のいう「協議経済」でもよいというような発言もしたが、明確にしてほしい。
「市場」に関連して、松尾氏は「市場は疎外態であるがゆえに、資本主義に特有なものである」と説明されたが、果たしてそうであろうか。「あるがゆえに」が、私には理解できない。ともかく、市場が資本主義に特有であるとすると、「アソシエーション経済」には市場はないことになるのではないか(だから、フロアからの発言で「村岡も松尾も市場廃棄論のようだが」という理解が生じたのではないか)。だが、松尾報告の諸論者の分類表のなかでは、松尾氏は自身を「市場」の最も近くに示している。
さらに、先の図では「資本主義経済→アソシエーション経済」への移行過程がくさび形になっていて、その点では、マルクスの「まず政治権力奪取」型とは異なる点で、私の意見と同じであるが、会場から(原爆の)キノコ雲と言われたように、この場合でも「革命」が予想され、大きな衝突があるようであるが、「暴力革命」になるのか? 土台に上部構造が対応するという点では、この図はマルクスの唯物史観とまったく同じではないか。
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