村岡到:総選挙後の政局 2005.9.13

 自民党二九六議席! 自公与党で三分の二を超える三二七議席、自民党の地滑り的勝利である。九月一一日に行なわれた総選挙の冷厳な結果である。「まさかここまで伸びるとは」が自民党中枢の反応である。
 まず基礎的数値を確認しておこう。当選者数は別表の通り、比例区の得票数は、自民党二五八九万票、民主党二一〇〇万票、公明党八九九万票。投票率は六七・五%で前回より七ポイント増えた。

 なぜこんなことになったのか、その理由は深く探らなくてはならないが、向こう四年間は衆議院におけるこの力関係が日本の政治と経済を大きく規定することになるだろう。二年後に参議院選挙があるが、普通の法案は参議院で否決されても衆議院の三分の二で成立することになっている。与党に反対する民意を貫き表現する手段はいつにも増して、院外の大衆闘争の展開だけとなった。もちろん、この国会内の力関係が日本社会のすみずみまでストレートに貫徹されるわけではなく、問題の性格や地方自治体や個別の企業による、そこでの力関係が強く作用する。したがって、個別の現場における闘いは以前よりはるかに大切になる。全体的な重圧のなかで、その持ち場でいかにして持ちこたえ、反撃し、全体的力関係の転換に結びつけるのかが、問われる。左派にとっては正念場に立たされた、と覚悟しなくてはならない。なぜ、それでもなお闘いつづけるのかを、根底的に明らかにして自らの立脚点を固め、周囲に主張・説得することが求められる。意固地で偏屈な個人的思いや怒りに頼っていたのでは孤立するだけであり、より共通性のある大義を軸として結集しなければならない。過去の分裂や対立の経緯にこだわるのではなく、連帯を拡大する方向で進路を模索するほかない。

 勝ち組・負け組の二極化へ
 一体、日本社会はどうなるのか。いつもは政治的テーマは取り上げない四駒漫画「ののちゃん」の石井ひさいちが特別に「総選挙番外ののちゃん」で、「競争社会になるのか?これから」「勝ち組・負け組どころか、ボロ勝ち組とボロ負け組かもな」と会話し、最後に小泉首相に似た男に「眠から棺へ!」と叫ばせた(「朝日新聞」九月一二日)。「官から民へ」に騙されて惰眠していると、棺桶に直行すると鋭く警告した。私は、密かに「ののちゃん」のファンなのだが、出口調査で投票先と「ののちゃん」への好悪の相関関係を調べたらどうなるのであろう。
 この四年間に正規雇用が二二二万人減り、非正規雇用が三二%を超える(若年層では四八%)までに増加する形で雇用構造が劇的に変化し、勝ち組・負け組の二極化が進み、貧富の格差が拡がり、<貧困>が深刻な問題となっている。経済学者橘木俊詔は、「日本の貧困率」は「一五・三」で「先進国で第三位」。「想像を超えて深刻さを増している」(「朝日新聞」二〇〇五年八月一日)と警告している。
 このような傾向がさらに進めば、必ずどこかで何らかの形で矛盾は吹き出すに違いない。その政治的水路が「自民党独裁」によって塞がれ、共産党も社民党も頼りにならず、新左翼も衰退すれば、いわば一匹狼的「自爆テロ」型に暴発する危険性すら生じるであろう。一件でも起きれば、九五年のオウム真理教のサリン事件のように、一九六〇年代の火焔瓶などとは比較にならない大惨事となる。どんなに危機管理を強化しても、ロンドンでの七・七爆発テロのように、防ぐことは難しい。激しく鋭い社会的矛盾を緩和し解消する以外に回避する道はない。民主政を根づかせ、政治的経済的難題をごまかすことなく明らかにして、少数者を切り捨てることなく打開の道を探ることが課せられているのである。

 小泉純一郎政権が体現しているものは何なのか。
 共産党の不破哲三議長が東京・大塚駅での選挙演説で、八月八日の解散直前に小泉首相がホテルニューオータニで日本経団連の会長でトヨタ自動車会長の奥田碵らと会食していたことを新聞の首相の動静欄で見つけて、注意を喚起した(「赤旗」九月二日)。別の報道ではこの一時間半にアメリカ政府高官と電話していたとも言われている。
 解散直後に、評論家の森田実は、小泉首相の郵政民営化の根底には「アメリカ政府の要求」があることを強調した。一九九三年の宮沢首相とクリントン大統領の日米会談で決まり、それ以降毎年アメリカ政府は『年次改革要望書』を突きつけ、日本に構造改革を迫っている(「朝日新聞」八月一二日)。在日アメリカ大使館のホームページに掲載されている昨年の報告には「日本市場の開放促進」「郵政民営化は市場原理に基づくべき」と明記し、実に広範囲で詳細な要求を突きつけている。郵政民営化については、昨年八月に東京で日米保険協定にもとづく二国間協議が行なわれアメリカ側は、郵便局の「簡保と民間事業者の間に存在する不平等な競争条件」をなくせと要求した。そのすぐ後に小泉政権は「郵政民営化の基本方針」を決定したのである。三四〇兆円の郵便貯金をアメリカの銀行・保険業界が狙っているのは、多くの論者の指摘するところである。
 結局、小泉首相が推し進めているのは、アメリカの新自由主義勢力の利害と路線なのであり、そこに共同の利益を見いだしている日本の巨大資本家の要求である。にもかかわらず、なぜ、多くの国民は小泉路線を支持したのか。財政赤字が国家と自治体を合わせて七七〇兆円にも上り、経済は長期に渡って停滞し、年金の行方が不安となり、前記のように社会は二極分化し、閉塞感が深まっていることが、現状を変える必要性を多くの国民に感じさせているからである。その変化への待望を、小泉首相はワンフレーズ話法と見せ物的作戦を駆使して取り込むことに成功した。参議院で否決されたのに衆議院を解散するという異常な手段や党内の反対派を排除し、対立候補に「刺客」を当てる作戦が、「改革への決意」の確かさと分かりやすいさと捉えられた結果である(国民の政治意識の変化やマスコミ・宣伝技術の問題についても分析・解明する必要がある)。
 この小泉路線に対抗する明確な戦略的展望を、他のどの政治勢力も描けなかった。民主党は「マニフェスト」なる新語を乱発したが、その内実は不確かであった。「日本をあきらめない」などという半ばあきらめたスローガンをメインに掲げるようでは、これほどの惨敗は想定外としても勝負は初めからはっきりしていたとも言える。
 マスコミが誘導する「二大政党制」なるものについて言えば、今回出現したのは一大政党と数小政党であり、小選挙区制の反民主政的な危険性を顕わにしただけである。比例区では、自民党は得票率四八%で議席は七三%となった。小選挙区では民主党との対比では投票数は一・三倍なのに議席数では四倍を超す差となった! また、今回の事態は、国民投票制度がぜひとも必要であることを明らかにした。

 共産党、社民党は現状維持、得票微増
 共産党は九議席で現状維持、得票は比例区四九二万票(前回より三三万票増)、社民党も七議席でプラス一で現状維持(ただし一つは自民党の獲得議席が候補者欠員により配分)、得票は比例区三七二万票(六九万票増)。
 その他の左派的勢力は手も足も出ず。瓦解したわけではなく、現状維持となったのは幸いではあるが、左派全体が深刻な反省を迫られていることには変りない。とくに、すでに四〇年以上にもわたって「社共に代わる勢力を」と叫んできた新左翼は、すでに昔日の面影すらないほどに衰退しているとはいえ、なお絶滅したわけでもなく、さまざまな課題と戦線で持ち場を死守している例も少なくないがゆえに、いまこそ真剣に従来の闘いについて反省しなくてはならない。一言で表現するのは乱暴であるが、大衆運動の軽視に反発して反<議会主義>を唱えているうちに、<反議会>主義に傾斜してしまい、国政選挙や自治体選挙を余りにも軽視・敵視したことの報いだと、私は考える。九六年から施行された小選挙区制の導入に際して、私たちはもっと真剣に反対すべきだったのである。選挙制度の改悪について、戦争反対や憲法改悪反対ほどの関心も熱意も向けなかったのはなぜか。その根底には日本の政治は「ブルジョアジー独裁」だという認識と暴力肯定の感情がある。議会は本来の闘争の場ではないと思っていたからである。このような考え方を根本的に克服することが求められている。私たちは、職場や地域で闘いぬくと同時に、議会に対しても積極的にかかわらなくてはならない。いわば両輪をなす闘いなのである。
 誰も指摘しているように、選挙期間中、小泉首相は郵政民営化しか争点化しなかったのであり、国民は他の問題について白紙委任したわけではない。靖国参拝を焦点とする対中国・韓国の外交も塞がったままである。今後、年金、消費税、改憲などの大きな問題がクローズアップされた時に、小泉首相の政治手法が有効か否かは確かではない。反対闘争の盛り上がりこそが、情勢を左右し、切り開く道である。
 歴史的転換点になるかも知れない、決定的に不利な力関係に抗して、生活を守り、平等を求め、平和を創造する闘いを展開していこう。
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