村岡到:黄海砲撃戦――直ちに漁業水域確定の交渉を
6月29日、日韓共催のワールドカップで韓国チームがトルコと3位決定戦を地元で行うというので国中が興奮のるつぼで沸きかえっていた日の午前に、黄海で韓国軍と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)軍とが砲撃戦を引き起こした。韓国の艦艇1隻が沈没、兵士4人が死亡、20人が負傷などした。北朝鮮の被害はなお不明。
韓国政府は直ちに、緊急の国家安全保障会議を開き、「北朝鮮側の先制攻撃による事件」として「謝罪と再発防止」を北朝鮮に求めた。他方、北朝鮮は「南側の挑発」として謝罪要求を「言語道断」と拒否した。
同様の事件は、1999年6月にも起きていたが、金大中大統領が平壌を訪問して実現した2000年6月の南北首脳会談以降はこのような事件は起きていなかった。今回についても事件の経過、真相は直ちに確定的に判明するものではないが、今、何よりも優先して明らかにすべき要点だけを提起したい。
結論は、両国為政者は<直ちに漁業水域確定の交渉を!>に尽きる。
この事件の何よりも核心は、「NLL」なるこれまた私にとっては初めて聞く「北方限界線」にある。韓国政府は、この「NLL」を北朝鮮が侵犯したと主張している。しかし、北朝鮮はこの「NNL」を認めていない。私たちは、昨年12月に「不審船事件」で「EEZ=排他的経済水域」を覚えたばかりなのに、今度は「NLL」。この「NLL」は「EEZ」とは違って、この黄海にしかない。朝鮮戦争の終結時に、国連軍が作ったもので、「事実上の南北軍事境界線」と言われている。「事実上の」と形容しなければならないのは、北朝鮮がこの線を認めていないからである。
この「NLL」については、前記の1999年6月の事件直後に真正面からこの問題を解明した文献がある。韓国の李泳禧教授(1929年生まれ)が「『北方限界線』は合法的軍事分界線であるのか――事実を知って主張しよう」で全面的に解明している(『朝鮮半島の新ミレニアム』社会評論社、徐勝・監訳、2000年)。この貴重な文献に学んで要点だけをまず知ることにしたい。
朝鮮戦争は1950年6月に勃発して、53年7月に停戦した。この停戦にさいして、国連が主導して、陸上では「境界線」や「軍事緩衝地帯」が決められ、両国が合意した。ところが、海上については「双方」が合意した「境界線」は決定されなかった。ここに問題の急所がある。そうしたなかで、アメリカと国連の両方で軍のトップに位置していたマーク・W・クラーク大将の名前を付けた「クラーク・ライン」を前身として、1953年に国連が設置したのが「NLL」である。そして、繰り返すが、この「NLL」を北朝鮮は認めていない。李教授によれば、「韓国国防部は、ついに1999年12月」に「NLL」が「国連司令官によって一方的に設置されたものであることをインターネットのホームページで明らかにした」。
注目すべきは、この「北方限界線」という名称の意味である。なぜ「南方限界線」ではないのか。あるいは、「EEZ」に関連して出てきた「中間線」ではないのか。当時の緊迫した情勢のなかで、韓国の李承晩大統領が<北進>を狙っていて、それを何としても抑えこもうとしたアメリカ――アイゼンハワー大統領の意向が働いて、「これ以上に北進してはいけない限界線」として設定したからこそ「北方限界線」と名付けられたのだという。当時、アメリカは「北朝鮮・中国側の挑発よりは、李承晩側の計画的軍事挑発をより一層恐れていた」のである。
李教授が強く主張するように、「北朝鮮が1977年に宣布した50マイル『軍事境界水域』や韓国が主張するいわゆる『西海軍事北方限界線』も全て一方的宣言および主張にすぎないのである」。まずはこの冷厳な事実から出発する必要がある。
李教授が「結論と提案」で主張するように、「停戦協定上空白として残されている水域」についてその「性格規定を新たに確定する必要がある」。悲惨でもあり、緊張激化にしか役立たない砲撃戦を回避する道はこの一点にかかっている。
付け加えることがあるとすれば、交渉の対象はこの一点に厳密に限定する必要がある。軍事行動の背景、理由、意味、責任、さらには関連する事件や言動などについて、双方が一切問題にしないことである。そういうことに触れた瞬間に、際限ない非難合戦にしかならない。なぜなら事態は錯綜しており、あの事件の前にはこの事件があり、その連鎖を解くのはきわめて困難だからである。韓国は「謝罪要求」を止め、北朝鮮は「NLLの撤廃」を交渉の前提にすることをやめたほうがよい。<漁業水域の確定>をテーマに設定すること自体がすでに「NLLの撤廃」を意味しているからである。双方が互いに相手を非難することは直ちに止めるべきである。初めから相手のメンツをつぶしたのでは交渉は始まらない。同じように、今回の砲撃戦に関連させて同時期に起きた他の事件を問題にしたり、「アメリカの軍事的狙い」を問題にすることは利口なことではない。近隣の諸国、日本などもそういう非難合戦に加わらないことが肝要である。
必要なことは一日も早く、両国が漁業水域を確定して、安心して漁業などができるようにすることである。そうすれば、例えばワールドカップで<統一旗>を両国の市民がスクラムを組んで打ち振る日も手繰り寄せることができるようになるであろう。
いつものようにぜひご意見を聞かせてください。
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