有事法制粉砕の勝利の諸要因

『QUEST』第21号=2002年9月、掲載予定

                   村 岡 到

 延長により192日間にもなった通常国会が閉会した。3人の議員が辞職、1人が逮捕、1人は党籍排除という「スキャンダル国会」と命名される醜態の連続のなかで、4大重要法案のうち有事法制と個人情報保護法案が継続審議とはいえ、ともかくその成立を阻止できたことは近年にない<勝利>である(郵政関連法案と医療改悪は成立)。闘いの度に「勝った、勝った」と言わないとやっていけないひ弱なレベルで勝利と評価しているのではない。後退局面が余りに長く続いているので、自信を喪失しかかっている傾向もあるので、何よりもまずこの点を明確にする必要がある。
 3、4月の状況を思い出せばさらにはっきりする。かなりの主観主義者以外は、奮闘しても結局は有事法制は強行成立してしまうだろうと考えていたであろう。小泉政権の高支持率がなお維持されていた(不支持が支持を上回るのは6月)し、反対運動もそれほど盛り上がっていなかったからである。にもかかわらず、法案の成立を阻止した! 重ねて強調するが、だから<勝利>なのである。
 どのような力が働いてこの<勝利>を手にすることができたのか。そこを明らかにすることがもっとも重要である。そうでなければ<勝利>といくら叫んでもほとんど意味はない。小泉政権は直ちに、秋の臨時国会にむけて有事法制成立への態勢強化に着手しようとしている。第二ラウンドが始まっているとも言える。第二ラウンドでの勝利のためにこそこの点を明らかにしなければならない。
 反対運動の組織化という視点から言えば、4・19=5000人、5・24=4万人、6・16=6万人の大結集を実現した大衆運動の展開の意義をあげることができる。陸海空港湾関係20労組と宗教者を主軸とする新しい共闘関係の創造の意義はきわめて大きい。国会論戦をリードした日本共産党と労働運動や市民運動との共闘が広く実現した点で特に意味がある。昨年から創り出された改憲阻止の共同行動(5・3集会)の蓄積も大きくプラスに作用した。この間の集会を呼びかけるビラには「非暴力の行動」であることがわざわざ記されている。1960年代末には、新左翼運動は、この行動の規範を拒否することを存在理由の一つとして、「社共に代わる」運動を追求し、それが独自に数万、数十万の集会・デモを展開していた。「非暴力の行動」を掲げる、共産党系が主力の集会に合流することはありえなかった。この時代の変化の意味をはっきりと認識する必要がある。共産党系大衆運動の「動員装置」として安保破棄中央実行委員会などがあるが、それらは独自に大きな集会を開催する能力はすでになく、この間の大衆運動の展開には役立っていないことも確認しておこう。
 第2に、地方自治体の首長や議員による反対の意志表明の広がりの意義をしっかり理解しなければならない。インターネットを活用した地方自治体議員の反対署名も短期のうちに400人近くになった。地方議会では6県を含む484自治体(全体の約6分の1)が法案撤回あるいは慎重審議を求める決議を採択した。全国知事会でも法案への疑問が相次いだ。
 第3に、言論人やマスコミの動向をあげる必要がある。有事法制では日本ペンクラブ(梅原猛会長)や日弁連はきっぱりと反対声明を発した。大阪弁護士会は独自に400人のデモを組織した。また、作家の城山三郎氏をはじめ「左派」とは自称も他称もされてない方々が反対の声を明確にした。さらに、個人情報保護法案に対して、光文社、集英社、文芸春秋などが週刊誌の広告のサイドに大きく「メディア規制3法案に反対します」と連続して掲げたのは非常に注目すべきである(この点で、岩波書店などいわゆる左派系の出版社があとに続かなかったのは何とも恥ずかしい話である)。民放連会長やNHK会長も反対の意志を表明した。
 第4に、このような全体的な動向のなかで、世論の分布が変化したことである。当初=2月には有事法制反対36%/賛成54%が、6月にはついに反対46%/賛成40%へと逆転した(日経全国調査)。この変化こそが、相次ぐスキャンダルの暴露、自衛隊による情報公開請求者のリスト作成問題、福田官房長官の核保有発言、瀋陽事件でのドジ、などのいわば「敵失」を法案粉砕のテコとして活用することができた基礎なのである。
今日の民主政のもとでは、多数の意志のありかが結局は方向選択の基礎をなしている。だから、第4の権力と言われるマスコミの動向は重要なのである。
 こうして、全体として情勢を見渡すと、アメリカ帝国主義による一極支配の趨勢を背景にして、それに追随する小泉政権の危険性には大きな注意が必要ではあるが、事態は一路反動化=戦争への道へ、と単純に押し流されているわけではないことがはっきりする。そこに、日本における民主政の定着の方向が示されている。改憲阻止の展望を大きく切り開いたと言うことができる。手を抜いた瞬間に力関係は逆転する。民主政とは普段の努力によって創造してゆくものなのだ。
 なお、有事法制をめぐる攻防の陰に隠れて、8月5日から住民基本台帳ネットワークが施行される。施行の前提として法律で定めてある個人情報保護法が成立しないのに、強行するのは違法であり、自治体単位での不参加で対抗する必要がある。ホームレス支援法は全会一致で成立した。 (『カオスとロゴス』編集長)

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