朝比奈隆と阪急電車
朝比奈隆さんが亡くなった。93歳。現役世界最高齢指揮者だったそうだ。ストコフスキーの95歳まであとわずかだったのに、残念だ。
実は筆者は朝比奈さんの生演奏は一度しか聞いていない。それも30年も昔、学生の頃だ。たまたま、アルバイトの家庭教師先に、ご近所のおばさんがチケットを売りに来て、それをバイト先のお母さんが買って下さった。「民音」の鑑賞券だったから、あのあばさんは創価学会の人だったんだろう。「いい音楽ですよ」と言いながら、おばさん、ちっともわかってる風じゃなかった。たぶん、組織から割り当てられて売り歩いてたんだろう。それはどーでもいー。その時の演目は「新世界」だった。地方ではこういう「通俗名曲」じゃないと客が入らなかったんだろう。「朝比奈ブルックナー」が評判になるのはもっと後の話である。
朝比奈さんは若い頃、阪急電鉄に就職している。京大出の朝比奈さんが運転士から始められたと聞く。同じく昭和の初め、後に東大海洋研を創設した日高孝次さんも、神戸の海洋気象台で、東大出ながら「春風丸」という船に乗って実地の海洋観測から経歴を始めておられる。当時、阪急の社長は小林一三、海洋気象台長は岡田武松という、ともに歴史に名を残している人である。厳しい教育方針を感じる。ただ、小林は宝塚歌劇の創始者でもある。阪急を2年でやめたという朝比奈さんの音楽の才能を見抜けなかったのかという恨みは残る。
さて、突飛な考えが浮かんでしまった。朝比奈さんの指揮は電車の運転ではないのか?ブルックナーの、ときに速く、度々停止もする音楽は普通電車に似てへんか?また電車の運転も芸術ではなかろうか?実際その種のシミュレーション・ゲームの愛好者も多い。
そう思って、「時刻表」で阪急電車のダイヤを調べてみた。しかし、神戸線も宝塚線も各駅停車で所要40分程度にすぎない。京都線は60分を越えるが、朝比奈さんが運転士をしていた頃、あの線はまだ阪急じゃなかったはずで、相応しくない。
この前、神戸に行ったとき高速長田から電車に乗ったら、お年寄りが尋ねてきた。
「阪急はどこで乗り換えるんですか?」
「特急やったら新開地から出てますけど・・」(よそもんの僕がなんで答えるねん)。
「サカセガワまで行きたいんやけど。」
そんな駅知らんぞ、と思ってたら、出しゃばりのおっちゃんがしゃしゃり出てきた。これが関西や。
「それはな、西宮北口で宝塚線に乗り換えるねん。」
ちゃいまんねん。宝塚線ゆうのは梅田(大阪)から宝塚へ行く線で、西宮北口から出てるんは「今津線」言いまんねん。「今津」ゆうのは「北口」より海側で、ここで阪神と連絡してる。昔はここから宝塚まで直通だった。それで今でも「今津線」でんねん。
ともかく、お年寄りは新開地で阪急の特急に乗り換えて行かれた。
神戸線や宝塚線の40分だとブルックナーは無理で、ここはベートーヴェンで考えるしかない。
宝塚線には「田園」が似合いそうだ。梅田で「田舎に着いたときの愉快な気分」はちょっとどうかとも思うが、「これから宝塚行くねん」といううきうき感には相応しいかもしれない。石橋あたりで「小川のせせらぎ」を逍遥する。川西能勢口あたりで「田舎の人々の集い」に嵐がやって来るか?しかしそれも去り、「牧歌」に包まれながら宝塚へ入って行く。
神戸線には5番の深刻さは似合わない。躍動感の7番か。芦屋あたりは気品の8番かもしれないが、いや7番で通そう。「舞踊の聖化」とワグナーが評したという第1楽章で軽快に梅田を出発する。塚口あたりで、ややもの哀しい第2楽章になるが、西宮北口でスケルツォ、岡本で4楽章に入ると熱狂のフィナーレで三宮到着。アンコールに「フィデリオ序曲」くらいで神戸高速線新開地まで行こうか。
あのマルーン色の電車にCDウォークマン持ち込んで、風景と朝比奈さんの音楽を同時に楽しむのも悪くなさそうな気がしてきた。
Dec. 2001
こんなこと書いてたら、1/6の NHK教育で7番をやってくれた。大フィルの重厚な音に圧倒された。それで、CDを買って来た。1985年5月26日、大阪ザ・シンフォニーホールでのライヴ録音の7番と8番だ。
そして、改めて演奏時間と阪急の時刻表を対比してみた。だいたい以下のとおり。
| 第1楽章 | 14:41 | 梅田〜武庫之荘 序奏(約4:00)で梅田〜十三
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| 第2楽章 | 8:43 | 武庫之荘〜夙川
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| 第3楽章 | 10:37 | 夙川〜六甲
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| 第4楽章 | 8:29 | 六甲〜三宮
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さらに、8番の演奏時間は神戸線の特急によくはまる。
| 第1楽章 | 9:55 | 梅田〜
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| 第2楽章 | 3:43 | 〜西宮北口
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| 第3楽章 | 5:15 | 西宮北口〜岡本
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| 第4楽章 | 8:43 | 岡本〜三宮
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1楽章と二楽章の順序を入れ替えると、梅田〜十三〜西宮北口にぴったりはまるが、これはなんぼなんでもメチャクチャや・・
Jan. 2002
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